| 社長 |
「さて、想定される自己信託の活用法などを教えてもらおうかな」 |
| 税理士 |
「はい。かしこまりました。まず、自己信託で活用が考えられるのは、事業信託です。事業信託とは文字通り、事業そのものを信託することです」 |
| 社長 |
「事業そのもの? ちょっとピンと来ないなあ」 |
| 税理士 |
「そうですねえ。例えば、社長の会社で製品を製造する部門と製造された製品を販売する部門の二つの部門があるとします。その部門を事業と捉えて、例えば、製造部門だけを会社から信託するというイメージです」 |
| 社長 |
「製造部門を信託すると言うことは、製造部門にある機械などの設備はもちろん、製造部門に所属する人などもということ?」 |
| 税理士 |
「そういうことです。それに加えて、製造部門に借入金などがある場合には、借入金も信託できます。借入金の信託は、信託法の改正により認められたもので、改正前はプラスの財産のみしか信託が認められなかったのですが、改正後は借入金などのマイナスのものもプラスのものと一緒にという条件付で信託されることが認められました。マイナスのものも信託できるようになったことで事業の信託が認められたということになります」 |
| 社長 |
「なるほど。さて、事業を自己信託することで、どのようなメリットや効果が得られるのかな?」 |
| 税理士 |
「少し前に説明させて頂きましたが、企業の資金調達の一環として自己信託による事業信託が活用されることが期待されています。ある事業部門を自己信託して、投資家にその事業部門の収益に基づいた受益権を発行し、資金調達を行うという方法です。事業の一部を信託することで、企業から切り離され、万が一、元の企業が倒産してしまった場合でも、信託された事業は影響を受けませんので、投資家は、事業そのものに着目して投資しやすくなると考えられますし、企業は、優良な事業を活用しての資金調達が可能になると考えられています」 |
| 社長 |
「なるほど。面白い活用ができそうだね」 |
| 税理士 |
「しかしですね…。実は、この事業信託、あまり活用は進まなそうです」 |
| 社長 |
「え〜どうして? 優れた技術やノウハウを持つ事業部門を内部に抱えている会社なんかには、活用されそうだけど…?」 |
| 税理士 |
「実は、税の面倒見があまり良くないのです。事業を自己信託し、投資家に受益証券を発行して、資金調達を行う場合、税法上、受益証券発行信託という信託に該当し、原則として、信託そのものに法人税が課税されます。法人税が課税されないためには、利益の留保割合を2.5%、つまり、残りの97.5%は配当によって、分配しなければ信託そのものに法人税等の課税がされます。つまり、子会社を作るのと同じになってしまいます。その上、事業を信託する際に、事業に含み益がある場合には、信託の段階で会社側に法人税等が課税されます。子会社を作る場合には組織再編税制に定める一定の要件を満たせば、事業移転時の課税は行われません」 |
| 社長 |
「利益の留保割合が2.5%ということは、ほとんど、利益を信託内部に残してはいけないということだよね? 事業を進める上では、将来に向けた再投資などのために、ある程度利益を留保しなければならないよね。ちょっと現実的ではないなあ」 |
| 税理士 |
「そうなんです。ですから、税を考えた場合には、事業信託と言うよりも、むしろ、企業が持つ特許権やノウハウなどの無形資産を信託で切り離し、投資家に受益証券を発行して、資金調達を図るなどの活用法が現実的ではないかと思われます。無形資産であれば、利益留保割合が2.5%であっても、信託の維持は可能だと思われるからです」 |
| 社長 |
「なるほど。眠っている特許権やノウハウを活かす意味では、面白い活用法だよね」 |
| 税理士 |
「事業の自己信託は、将来的に税制改正などにより、税制面での使い勝手が良くなれば活用が増えるかもしれませんが、現段階では、子会社にして、子会社株式の一部を売却して資金調達を行う方が、現実的といえます」 |
| 社長 |
「確かにそうだね」 |